福島地方裁判所 平成3年(行ウ)12号 判決
原告
佐藤惣一郎(X1)
同
遠藤弥三次(X2)
同
根本裕久(X3)
同
横田重一(X4)
右四名訴訟代理人弁護士
山田二郎
同訴訟復代理人弁護士
安藤裕規
被告
郡山市固定資産評価審査委員会(Y)
右代表者委員長
関川栄達
右訴訟代理人弁護士
石川博之
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 まず、被告の本案前の主張について判断するに、行政事件訴訟法一七条は、併合の要件として当該処分又は裁決の取消しの請求と関連請求とであることを求めているが、そもそも関連請求制度は、当該取消訴訟に関連のある他の請求も併合して一括審理し、その重複と裁判の矛盾や抵触を回避することにより、裁判の迅速化を図る趣旨で設けられたものであるから、その概括的な類型を定めている同法一三条六号については、各請求の基礎となる事実が密接に関連しており、その争点がある程度共通していれば、請求の関連性を認める趣旨であると解することができる。そこで、原告らの本件各訴えをみてみると、原告らが各々所有する本件各土地について、固定資産の登録価格が高額であるとして審査の申出を行ったが、被告がいずれもこれを棄却する旨の決定をしたため、その審査手続が違法であると主張してその取消を求めているものであって、それぞれの基礎となる事実は別個であり、後記認定のとおり手続の経過についても個人差が存しているが、〔証拠略〕によれば、原告らはいずれも任意に組織した私的団体である「固定資産税を軽減する郡山市民の会」の幹部であり、以前から郡山市の固定資産税について重税感を抱いていたところ、平成三年度の固定資産の評価替が行われた機会に会員を代表して本件の各審査の申出を行ったという経緯が認められるのであり、このような背景事情に照らしたうえで、同一年度における審査手続につき、ほぼ同一の理由をもって違法性を主張していることにかんがみれば、原告等ら各訴えは基礎となる事実が密接に関連していると評価することもできないことはなく、その争点も概ね共通しているので、とりあえず本件各訴えを関連請求として検討を進めていくことにする。
二 次に、本件の各審査手続における違法性の有無を判断するにあたり、まず固定資産評価委員会による審査手続の意義と性格について考えておく。
1 法は、固定資産税の課税標準となる固定資産の価格は、適正な時価によるものとして(三四一条五号)、これを市長村長が決定して(四一〇条)固定資産課税台帳に登録し(四一一条)、関係者の縦覧に供しなければならない(四一五条)と定めている。その結果、固定資産の納税者が当該登録価格に不服のあるときには、各市町村に設置された固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができるところ(四三二条)、固定資産評価審査委員会は、市町村の住民で市町村税の納税義務がある者のうちから、議会の同意を得て市町村長が選任した委員によって構成されており(四二三条)、審査の申出があったときには、直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他事実審理を行い、その申出を受けた日から三〇日以内に審査の決定をしなければならず(四三二条一項)、審査申出人の申請があったときは、特別な事情がある場合を除き、口頭審理の手続によることと定められている(同条二項)。このように法が、固定資産評価に関する不服申立の処理を、その評価と課税を行う市町村長から独立した第三者機関である固定資産評価審査委員会に委ねたのは、固定資産の評価に際しては評価する者の主観的な判断要素が加わる可能性を完全に排除することができないため、中立の立場にある委員会をして公正な審査を行わせ、もって、固定資産評価の客観的合理性を担保して納税者の権利保護を図るとともに、適正な税の賦課を実現しようとしたからにほかならない。このように考えると、かかる手続の性格は、簡易迅速な納税者の権利利益の救済と課税行政の適正化を図ることを目的とした行政救済手続であって、その審理においては民事訴訟と同様の厳格な手続の施行までを要求するものではない、と解することができる。
前記のとおり、法が審査手続について書面審理を原則としながら審査申出人の申請があったときは口頭審理によるとしているが、法に定めがあるものを除くほかは、固定資産評価審査委員会の審査の手続、記録の保存その他審査に関し必要な事項など、すべて当該市町村の条例で定められている(四三一条一項)。そして、被告における審理手続の細目を定めている郡山市固定資産評価審査委員会条例(郡山市条例第九九号)によると、書面審理においては、市長に対し審査申出書や必要と認める資料の概要を記載した文書を送付し、期限を定めて、答弁書の提出を求め(八条一項)、必要があると認める場合においては、審査申出人に対し市長の提出した答弁書や必要と認める資料の概要を記載した文書を送付し、期限を定めて、弁ばく書の提出を求めることができ(同条二項)、さらに市長に対し弁ばく書等の送付と再答弁書の提出を求めることができるとされている(同条三項)。このような書面審理の方式からすると、必ずしも一回の答弁書と弁ばく書のやり取りによって、すべての主張や立証を尽くすことを目指しているわけではなく、弁ばくと答弁を重ねることにより、早期に争点を明確にして絞り込み、その判断を的確に行うことを予定していると解されるのであり、かような運用をもってして迅速かつ効率的な審理運営が可能になると考えられ、前示の法の趣旨に適うところといえる。
2 また、法は、固定資産の評価方法について、自治大臣が固定資産評価基準を定めてこれを告示し(三八八条一項)、これに従って市町村長が固定資産の価格を決定するとされているのであるが(四〇三条一項)、この固定資産評価基準によれば、宅地の評価は、市町村長が選定した標準宅地の評点数に比準して各宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点あたりの価額に乗ずることによって各宅地の評価額を求める方法によって行うとされており、市町村長は、その評価の均衡を確保するために当該市町村の各地域の標準宅地の中から一つを基準宅地として選定し、標準宅地の適正な時価を評定する場合において、基準宅地との評価の均衡と標準宅地相互間の評価の均衡を総合的に考慮することを求められている。
ところが、納税者の立場からみれば、固定資産課税台帳を閲覧してその所有する土地の価格を知り、これに不服を抱いて審査の申出をしたとしても、その不服事由を具体的に主張するために必要な当該価格の評価の方法や根拠等に関する資料・情報がすべて評価権者である市町村長の手中にあって、その内容をまったく知ることができないうえに、内容的にもかなり専門技術的な事項にまでわたるのが通例であることから、固定資産評価審査委員会としては、審査申出人に対し、早期にその不服事由を具体的に特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲の右資料・情報を了知できるような措置を講ずべき義務があると解せられる(最高裁平成二年一月一八日判決・民集四四巻一号二五三頁)。そして、その主張特定のために必要とされる合理的な範囲については、審査申出人の主張内容に応じて判断されることになるが、例えば、宅地の評価が高額に過ぎるとの主張がなされたときには、前記のとおり市町村長が標準宅地の選定及びその価格の決定を行い、その標準宅地との相関関係によって当該宅地の価格が決定されるというのであるから、とりあえず当該宅地の価格決定に至るまでの過程、すなわち、少なくとも標準宅地の選定とその価格決定の根拠にまで遡って具体的に説明を要するというべきである。
3 なお、審査請求に対する決定において、不服申立に関する教示を欠いていても、右決定自体の効力を左右するものでないので、この点についての原告らの主張は理由がない。
三 そこで、以上のような見地をふまえたうえで、被告の審査手続について各原告毎にそれぞの主張を順次検討する。
1 原告佐藤の審査手続
(一) 〔証拠略〕によれば、原告佐藤に関する審査手続の経過について次のような事実が認められる。
原告佐藤は、四月三〇日、被告に対し、その所有にかかる別紙物件目録一記載の土地につき(その他一一筆の土地についても、同時に審査の申出を行ったことが窺われる。)、固定資産課税台帳登録事項審査申出書を提出して審査の申出を行い、あわせて審理手続の方式として口頭審理を申請したが、その申出の趣旨を「郡山市駅前一丁目353 二四七・五九%の上昇、不当・不適正そのものだ絶対訂正を望む」とし、その理由を「営業活動を妨害することは絶対許すことが出来ない。以前にもどすことを要求する。」と主張していた。これを受けて、被告は、口頭審理の期日を五月二一日午前一〇時から郡山市福祉センターにおいて開催する旨を決定し、同月一四日、原告佐藤と市長にその旨をそれぞれ通知した。ところが、第一回審理期日当日の午前九時ころ、原告佐藤が郡山市役所を訪れて被告書記に対し都合により出席できないと告げ、その場で作成した同日付の審理方法変更願を提出して、口頭審理から書面審理方式への変更を申し立てた。そのため被告は、県庁地方課等に照会して申立の取扱如何につき助言を求めて検討し、同月二四日、その申立を認めて本件審査手続を書面審理方式に変更することを決定した。そして、被告は、同月二七日、市長に対し、期限を六月一〇日までとする答弁書の提出を求める文書を発し、同月一四日、市長から答弁書の提出を受けたが、それには固定資産評価基準に従って土地の評価を行うとして一般的な評価方法の概略が説明されたうえで、原告佐藤の審査申出にかかる土地の評定について、同一の状況類似地区に属する標準宅地を挙げて、その適正な時価を評点数をもって明らかにし、これとの比準から右土地の評点数を評定した旨の評価の算定過程が明示されていた。そこで、被告は、同月一五日、原告佐藤に対し、右答弁書を送付するとともに弁ばく書の提出期限を同月二六日と定めて通知したところ、そのころ有志とともに税制の調査のために欧州へ渡航中であった原告佐藤は、同月一八日に帰国すると、同月二〇日、被告に対し、弁ばく書提出期限延期願を提出して、海外旅行後の多忙を理由に右提出期限を七月末日まで延期するように求めた。そのため被告は、同月二八日、同月五日までの延期を認めたが、七月一日、なおも原告佐藤が六月二九日付の書面をもって業務多忙を理由に再度提出期限を同月末日まで延期するよう求めてきたものの、これを認めず、同月五日、原告から弁ばく書の提出がなかったので審理を終結して、同月二二日、審査の申出を棄却する旨の決定をなし、七月二四日付の決定書がそのころ原告佐藤に送達された。
(二) 以上の事実関係に基づいて、原告佐藤に関する審査手続における違法性について判断をする。
(1) まず、原告佐藤は、被告が市長から答弁書の提出を受ける以前に同原告の意見を聴取することなく一方的に期日を指定し、しかもその通知を受けた日から期日まで一週間の余裕もなかったなどとして、本件審査手続での口頭審理を受ける機会を実質的に奪われたと主張するので、この点につき検討をする。
期日指定に際して、その出席の機会を実質的に保障するために審査申出人の意見を予め聴取した方が望ましいとはいえるが、簡易迅速な権利救済を図る制度趣旨や、審査手続には審査申出人のほかにその代理人又は総代、管理人なども関与できるとされていること(前記郡山市条例六条三、四項)などを考えると、一方的な期日指定をもって直ちに違法とみるべき理由はない。
また、口頭審理期日の指定前に市長から答弁書を徴していない点を考えてみるに、前掲の郡山市条例によると、審査申出人は、口頭審理に出席して意見を述べることができ(九条一項)、委員会は、口頭審理を行う場合においては、そのつど、文書又はその他の方法で口頭審理の日時及び場所を審査申出人及び市長に通知しなければならず(同条二項)、審理に際して必要があると認める場合においては、関係者相互の対質を求めることができ(同条三項)、関係者に対し、その請求により、口頭による証言にかえて口述書の提出を許すことができ(同条四項)、審査申出人が出席している場合においては、口頭審理を終了するに先だって審査申出人に対して意見を述べ、かつ、必要な資料を提出する機会を与えなければならず(同条六項)、書記は、口頭審理について調書を作成しなければならない(同条七項)とされていて、口頭審理のときには、期日において、口頭によって意見を陳述することにより主張及び立証を行うことを想定しており、事前に答弁書を徴することまでは予定していない。そして、被告としては、かかる手続を前提として、第一回口頭審理期日においては、市長側が土地の評価根拠を明らかにし、これに対して審査申出人から質疑を行うに止まり、次回期日以降において、本格的な弁ばくや答弁を行う審理方針であったというのである。なるほど、前示判断のとおり、市町村長にいわゆる了知措置義務があると解せられることに照らせば、口頭審理の場合であっても期日前に答弁書の提出を求めて、これを審査申出人に送付することにより予め当該土地の評価方法や根拠等の情報を開示しておいて、その不服事由を具体的に特定させ、口頭審理期日にその主張をさせるという手順の方が、口頭審理を第一回期日から充実させることができるとともに、審査申出人に対し早期に情報を開示することにもなるから、より望ましい口頭審理手続のあり方であると考えられる。しかし、口頭審理の期日の審理運営については手続の主宰者たる委員会の裁量に委ねられていると解されるので、被告において前記の審理方針に基づき、市長から答弁書を徴することなく第一回期日を指定したとしても、その裁量の範囲を逸脱しているとはいえず、そのような運用をもって直ちに違法とすることはできない。
そして、前示の認定事実によれば、被告の口頭審理の期日指定は第一回期日の七日前である五月一四日になされていて、その通知が市長には同日中に到達していることからして、原告佐藤にもそのころ到達したと推認されるところ、原告佐藤はそれから第一回期日までの間に一週間の猶予がありながら、被告に対し、右期日指定についてまったく異議を申し述べることもないまま、期日当日に至って突如として不都合を申し立てたうえに、右変更申立書を自ら任意に作成したというのであるから、そのような経過に照らすと、被告が審理方針の変更を強いたような事情を窺うことはできず、書面審理への変更の申立は原告佐藤の自発的な意思に基づくものと認められる。
したがって、被告が原告佐藤の口頭審理の機会を実質釣に奪ったとは認められない。
(2) 次に、原告佐藤は、被告が本件審査手続において弁ばくのための十分な準備期間を与えず、弁ばく書提出期限の延期も認めなかったことから、実質的に弁ばくの機会を奪っていたと主張するので検討する。
前示の認定事実によれば、被告は、原告佐藤から書面審理への変更の申立を受けた後、五月二四日にその変更を決定すると、同月二七日、市長に期限を六月一〇日までと定めて答弁書の提出を求めているので、被告が市長に与えた猶予は一四日間であるのに対し(なお、市長が実際に原告佐藤に関する答弁書を提出したのは六月一四日であるが、右通知が郡山市に到達したのは五月三一日であったことから、実質的にみてもやはり一四日間である。)、原告佐藤には、市長の答弁書の提出を受けた翌日である同月一五日に、弁ばく書の提出期限を同月二六日と定めて右答弁書を送付しているのであるから、与えられた期間は一〇日間であり、さらにその後、申立を受けて七月五日までの延期を認めて九日間の猶予を追加して与えていることになるので、市長を不当に優遇しているとはいえない。もっとも原告の主張するように、審査申出人は、一般的に租税の知識が乏しい市民であるから、ある程度の準備期間を必要とすることは当然であるが、前示の書面審理手続の構造に照らして、なおも弁ばくを続行できる機会があることを考慮すれば、被告が与えた前記期間が実質的に弁ばくの機会を失わせると評価できるほど不当に短いとはいえない。なお、原告佐藤は、審査手続の期間中に海外渡航して不在にしており、その期間中は手続の追行が不可能となるので、やむを得ないと認められる事由があるとして相当期間の延長を斟酌する必要があるものの、被告がその事情を考慮して認めた九日間の期限延長は決して不当ではない。
以上のとおり、被告は、原告佐藤に対して、弁ばくのために相当期間を与えていたのであるから、その機会を実質的に奪ったとは認められない。
(3) 原告佐藤は、本件の審査手続について審理が尽くされていないと主張するので検討する。
本件の書面審理の経過をみると、前示の認定事実によれば、原告佐藤は、当該土地の評価が前基準年度に比較して高額に過ぎるのでその見直しを求めるとの理由で審査の申出を行い、これに応じて市長から、固定資産評価基準に従って選定した標準宅地に比準して算出した過程を算式を交えながら明示された答弁書が提出されたところ、延長された期限を経過しても弁ばくを行わなかったので、被告が審理を終結して本件決定をするに至ったというのである。そうすると、被告は、市長から評価の根拠とした資料等を取り寄せることなく審理を終結しているが、市長が提出した答弁書をみると、評価が高額に過ぎるとの原告の主張に対して、比準した標準宅地の選定及びその価格の決定に関する説明が決して十分ではないと考えられるので、被告が原告に対する了知措置義務を尽くしたといえるかどうかは疑問の余地がないでないが、原告佐藤が、審査の申出で前示認定の程度の不服事由しか述べておらず、市長の答弁書によりその主張を具体的に特定するに必要最小限度の範囲と認められる情報が示された後になっても、弁ばくをなさなかったのであり、前記のとおり固定資産評価審査手続は、行政救済手続なのであって必ずしも民事訴訟と同様の厳格な手続による必要はないから、右の程度をもって審理を終結しても審理不尽の違法があるとはいえない。
したがって、原告佐藤の審理不尽による違法との主張も理由がない。
(三) 以上のとおり、原告佐藤の主張する違法事由はいずれも認められないので、原告佐藤の請求は理由がない。
2 原告遠藤に関する審査手続
(一) 〔証拠略〕によれば、原告遠藤に関する審査手続の経過について、次のような事実が認められる。
原告遠藤は、四月三〇日、被告に対し、その所有にかかる別紙物件目録二記載の土地外三筆につき、固定資産課税台帳登録事項審査申出書を提出して審査の申出を行い、あわせて審理手続の方式として書面審理を申請するとともに代理人として遠藤喜志雄を選任したが、その申出の趣旨を「私儀所有の土地(虎丸町一三〇、一三一、一三二、一三三)の評価額の異常な価格について御説明願いたい。」とし、その理由を「土地の異常な評価額の上昇はこの上に住む人達の地代を大幅に値上げせざるを得ません。家賃地代はそう簡単には上げられません。何故二割も上昇したのでしょうか。」と主張していた。これを受けて、被告は、五月九日、市長に対し、後記の原告根本及び同横田の分とあわせて、期限を五月一五日と定めて答弁書の提出を求める文書を発し、右期限までに市長から答弁書の提出を受けたが、それには前記原告佐藤の場合と同様に、固定資産評価基準に従って土地の評価を行うとして一般的な評価方法の概略が説明されたうえで、原告遠藤の審査申出にかかる土地の評定について、同一の状況類似地区に属する標準宅地を挙げて、その適正な時価を評点数をもって明らかにし、これとの比準から右土地の評点数を評定した旨の評価の算定過程が示されていた。そこで、被告は、同月一五日、原告遠藤に対し、右答弁書を送付するとともに弁ばく書の提出期限を同月二一日と定めて通知したところ、同月二一日、原告遠藤が弁ばく書を提出して、市長の答弁書が極めて抽象的であると批判したうえで、(1) 売買実例の場所と価格を開示してもらいたい、(2) 一〇〇メートル離れた所を標準宅地とするのは不当である、(3) 標準宅地の特定を具体的に示してもらいたい、と主張した。これを受けて、被告は、そのころ市長に対し右弁ばく書を送付して再答弁書の提出を求め、六月六日市長から再答弁書の提出を受けたところ、右弁ばくに対して、(1)については、売買実例は法律の規定により開示できない、(2)については、郡山市の場合、普通住宅地区において、状況類似地区の区分は概ね四〇〇メートル四方となっているから標準宅地の選定は適切である、と答弁し、(3)については、旧身体障害者会館(現ゲートボール場)の東側であるとして、その住居表示を付記して場所を特定した。そこで、被告は、同日、原告遠藤に対し、右再答弁書を送付するとともに再弁ばく書の提出期限を同月一四日と定めて通知したが、再弁ばく書の提出がなかったので審理を終結し、同月二八日、審査の申出を棄却する旨の決定をし、七月二日付の決定書がそのころ原告遠藤に送達された。
(二) 以上の事実関係に基づいて、原告遠藤に関する審査手続における違法性について判断をする。
(1) まず、原告遠藤は、被告が本件審査手続において弁ばくのための十分な準備期間を与えないことにより、実質的に弁ばくの機会を奪ったと主張するので検討する。
前示した事実によれば、被告は、原告遠藤から審査の申出を受理した後、五月九日、市長に対し、期限を五月一五日までと定めて答弁書の提出を求めており、市長に与えられた期間は六日間であるのに対し、原告遠藤には、右答弁書が被告に提出された同月一五日に、弁ばく書の提出期限を同月二一日と定めて右答弁書を送付しており、これに与えられた期間も六日間であると認められる。また、被告は、市長に対し、原告遠藤の弁ばく書の提出を受けると、直ちにこれを送付して再弁ばく書の提出を求め、六月六日に再答弁書の提出を受けるや同日中に、今度は原告遠藤に対し、右再答弁書を送付するとともに再弁ばく書の提出期限を同月一四日と定めて通知しているので、市長に再答弁書の提出を求めた時期が明らかではないが、おおよそ二週間程度の猶予が与えられたと推測されるのに対し、原告遠藤に与えられた再弁ばく書を準備するための期間は八日間であるから、このように双方に与えられた準備期間を比較すると市長を不当に優遇しているとはいえない。ただ、原告遠藤に弁ばくのための準備期間として与えられた六日間は、審査申出人が一般的に祖税に関する知識に乏しい実情に照らすと、決して十分であるとはいえないものの、前示した書面審理手続の構造からして弁ばくを続行できる機会があることを考慮すれば、実質的に弁ばくの機会を失わせると評価できるほどに不当に短い期間とはいえない。
したがって、被告が弁ばくの機会を実質的に奪ったとは認められない。
(2) 次に、原告遠藤は、本件の審査手続について審理が尽くされていないと主張するので検討する。
原告遠藤に関する書面審理手続の経過をみると、前示の認定事実によれば原告遠藤は、当該土地の評価額が前基準年度のそれに比較して上昇したことを不服として本件審査の申出を行い、これに応じて市長から、固定資産評価基準に従って算出した過程を算式を交えながら明らかにした答弁書が提出されたので、弁ばく書をもって、売買実例の開示と標準宅地の特定を求め、当該標準宅地の選定についての不服を申し立てたところ、市長が再答弁書をもって、守秘義務等を理由として右開示を拒む一方、標準宅地を具体的に特定し、その選定の根拠についてさらに説明を付加したが、再弁ばくを行わなかったので、被告が審理を終結して本件決定に至ったというのである。そうすると、被告は、原告遠藤に関しても市長から評価の根拠とした資料等を取り寄せることなく審理を終結しているが、原告遠藤の弁ばく書と市長の答弁書と再答弁書によって、原告遠藤の不服事由の特定がなされて争点がある程度明確になったと考えられ、売買実例の開示拒否の点は、現行の固定資産評価基準が土地について売買実例価額を基準として評価する方法を基本としていることから議論の余地があるものの、これを明らかにしないこと自体からは直ちに当該土地の評価額の算定過程の合理性を失わせるものではなく、その他、再弁ばく書の提出期限の経過時点における原告遠藤の主張では、市長の答弁する固定資産評価基準に従った算出過程について合理性を疑わしめるに至らなかったと認められるので、さらに資料の提出を求めずに判断しても違法とは認められない。
したがって、原告遠藤の審理不尽による違法との主張も理由がない。
(三) 以上のとおり、原告遠藤の主張する違法事由はいずれも認められないので、原告遠藤の請求は理由がない。
3 原告根本に関する審査手続
(一) 〔証拠略〕によれば、原告根本に関する審査手続の経過について、次のような事実が認められる。
原告根本は、四月三〇日、被告に対し、その所有にかかる別紙物件目録三記載の土地外九筆につき、固定資産課税台帳登録事項審査申出書を提出して審査の申出を行い、あわせて審理手続の方式として書面審理を申請するとともに根本鎮郎を管理人に定めたが、その申出の趣旨を「前回(昭和六三年度)の評価額の二・七倍にアップする事は不当である。」とし、その理由を「周辺地区の実際売買価格を基準に評価額を算出するのは全く納得出来ない。平成二年度と平成三年度の課税標準額を比較した場合上限アップ率である約三〇%の上昇であるので次回の評価替えの年(平成六年)までの課税標準額は二倍相当額が予想される為」と主張していた。これを受けて、被告は、五月九日、市長に対し、期限を五月一五日と定めて答弁書の提出を求める文書を発すると、右期限までに市長から答弁書の提出を受けたが、これには、前記の原告らと同様に、固定資産評価基準に従って土地の評価を行うとして一般的な評価方法の概略が説明されたうえで、原告根本の審査申出にかかる土地の評定について、同一の状況類似地区に属する標準宅地を挙げて、その適正な時価を評点数をもって明らかにし、これとの比準から右土地の評点数を評定した旨の評価の算定過程が示されていた。そこで、被告は、同月一五日、原告根本に対し、右答弁書を送付するとともに弁ばく書の提出期限を同月二一日と定めて通知したところ、同月二一日、原告根本が弁ばく書を提出したが、それには「自治大臣の告示する『固定資産評価基準』の明確な説明がほしい。」と主張するに止まっていたので、被告は、そのまま審理を終結して、同月二九日、審査の申出を棄却する旨の決定をし、六月三日付の決定書がそのころ原告根本に送達された。
(二) 以上の事実関係に基づいて、原告根本に関する審査手続における違法性について判断をする。
(1) まず、原告根本は、被告が本件審査手続において弁ばくのための十分な準備期間を与えないことにより、実質的に弁ばくの機会を剥奪したと主張するので検討するに、前示した事実によれば、原告根本についても審査申出から弁ばく書提出までの経過は、原告遠藤の事例とまったく同じであるから、この点に関する判断については原告遠藤のそれと同一である。
したがって、弁ばくの機会を実質的に剥奪されたとする原告根本の主張は理由がない。
(2) 次に、原告根本も、本件の審査手続の審理不尽を主張するので検討する。
原告根本に関する書面審理手続の経過をみると、前示の認定事実によれば、原告根本も、自己の所有する当該土地の評価額が前基準年度のそれに比較して上昇したことを不服として本件審査の申出を行ったが、市長から提出された答弁書によって、算式を交えながら固定資産評価基準に従って算出した過程を明らかにされたところ、原告根本が弁ばくとして固定資産評価基準についてのさらなる説明を求めただけに止まり、その他不服事由を具体的に特定して主張しなかったので、被告が審理を終結して本件決定に至ったというのである。そうすると、被告は、この場合にも資料を取り寄せることなく審理を終結しているが、市長の答弁書の内容だけでは、評価が高いとする原告根本の主張に対して、比準した標準宅地の選定とその価格の決定に関する説明が決して十分でないと考えられるし、現に原告根本も固定資産評価基準の追加説明を求めていたのであるから、これまた被告が原告に対する了知措置義務を尽くしたといえるかどうかは疑問の余地がないとはいえないが、それでも、前掲の手続の性質と簡易・迅速の趣旨に照らして、原告が市長の答弁する算出過程について合理性を疑わしめる主張をなさないことが明らかとなった右段階において、審理を終結してそのまま判断しても直ちに審理不尽の違法があるとはいえない。
したがって、原告根本の審理不尽による違法との主張も理由がない。
(三) 以上のとおり、原告根本の主張する違法事由はいずれも認められないので、原告根本の請求は理由がない。
4 原告横田に関する審査手続
(一) 〔証拠略〕によれば、原告横田に関する審査手続の経過について、次のような事実が認められる。
原告横田は、四月三〇日、被告に対し、その所有にかかる別紙物件目録四記載の土地につき、固定資産課税台帳登録事項審査申出書を提出して審査の申出を行い、あわせて審理手続の方式として書面審理を申請したが、その申出の趣旨は「郡山市喜久田町寺久保二四―三 四六二m2 平成二年 二七七二〇〇〇― 三年 四二五〇四〇〇― 五三%アップ」とされ、その理由を「寺久保の土地は奥まった袋小路にあり、便利も悪く、使用も限られ、今日の五三%アップには驚いています。回りの発展を見て、ある程度のアップは覚悟しては居りましたが、五三%という数字には大変不満ですので再検討の程をお願いします。」と主張していた。これを受けて、被告は、五月九日、市長に対し、期限を五月一五日と定めて答弁書の提出を求める文書を発すると、右期限までに市長から答弁書の提出を受けたが、それには前記原告らの場合と同様に、固定資産評価基準に従った評価方法の概略が示され、原告横田の審査申出にかかる土地の評価の評価額を算定方法を明らかにされていて、袋小路であるとの原告横田の主張は評価基準に該当しないので認容しない旨が付言されていた。そこで、被告は、同月一五日、原告横田に対し、右答弁書を送付するとともに弁ばく書の提出期限を同月二一日と定めて通知したが、右期限までに弁ばく書の提出がなかったので審理を終結して、同月二九日、審査の申出を棄却する旨の決定をし、六月三日付の決定書がそのころ原告横田に送達された。
(二) 以上の事実関係に基づいて、原告横田に関する審査手続における違法性について判断をする。
(1) 原告横田も、被告が本件審査手続において弁ばくのための十分な準備期間を与えないことにより、実質的に弁ばくの機会を剥奪したと主張するので検討するに、前示した事実によれば、原告横田についても審査申出から弁ばく書提出までの経過は、原告遠藤及び同根本の各事例とまったく同じであり、この点に関する判断については前示した原告遠藤のそれと同一である。
したがって、弁ばくの機会を実質的に剥奪されたとする原告横田の主張は理由がない。
(2) 次に、原告横田も、本件の審査手続の審理不尽を主張するので検討する。
前示の認定事実によれば、原告横田に関する書面審理手続の経過も、他と同様に自己の所有する当該土地の評価額が前基準年度のそれに比較して上昇したことを不服として本件審査の申出を行ったが、市長から提出された答弁書によって、選定した標準宅地の場所及びその適正な時価を評点数によって示されたうえ、算式を交えながら固定資産評価基準に従って算出した過程を明らかにされたところ、それに対し弁ばくを行わなかったので、被告は、審理を終結して本件決定をするに至ったというのである。そうすると、被告は、これまた資料等を取り寄せることなく審理を終結しており、市長の答弁書の内容に関する問題点は先に指摘したのと同様であるが、それでも原告横田において弁ばくを行わず、その主張を具体化する姿勢を示していなかったのであるから、前示の制度趣旨と手続の性質に照らして考えれば、市長の答弁した算出過程について合理性を動揺させるに至らないと判断し、そのまま資料の提出を求めずに決定を行っても直ちに違法とは認められない。
(三) 以上のとおり、原告横田の主張する違法事由はいずれも認められないので、原告横田の請求は理由がない。
第四 結論
原告四名の本件各請求については、概ね共通の争点につき併合して審理を遂げ、判決するに熟した段階に至った。いま改めて弁論を分離し、各原告毎に個別に審理する余地も必要も認められないから、関連請求として一個の判決をもって裁判することが相当である。
被告は、平成四年一月二二日付準備書面及び同年三月三〇日付準備書面において、標準宅地に対する評定過程及び標準宅地と審査の対象土地との比準について、具体的事実関係に基づいた説明をしている。もし仮に、不服審査手続においても、被告が、自らまたは市長を通じて、審査申出をした原告らに対し、右書面の記載に準ずる内容を知らせていたのであれば、手続上の保障を満足させることは間違いない。しかしながら、現実の本件不服審査手続において、被告が、自らまたは市長を通じて、審査申出をした原告らに対し知らせた事項は、前認定のとおり、標準宅地の評定に関する説明がまったくなされておらなかったし、標準宅地と審査の対象土地との比準についても具体的な説明が充分になされているとは思えないなど、疎略に過ぎる憾がないではない。また、審理内容も決して充実していたとは言えない憾がある。そして、被告が、かかる審理の方法・範囲を設定した所以は、不服申立人側の争訟態度と対応させたためであることが推認できる。すなわち、不服申立人である原告らの側には、争訟を熟させていこうとする意欲に乏しいように認められたため、その態度をもって当該不利益処分を課せられることに得心したと理解したか、少なくとも不服申立人側からの新たな攻撃方法は提出されないと認定したものであって、いずれにしても原告らの争訟態度に鑑みて、今後とも具体的事実関係に即した論争へと進展することはあるまいと判断し、概ね審理が遂げられたものと取扱い審理を打ち切ったものである。このような行政救済手続、なかでも迅速性を要請される事前救済手続において、行政庁が審理の方法・範囲を設定するにあたり、不服申立人側の争訟態度に対応させて調整することは許容されて然るべきであるし、この点に関する被告の判断には、既に説示したとおり裁量権の逸脱は認められず、違法性を帯びることはないのである。原告らに保障されている手続上の権利が侵害された、とする原告らの主張は採用できない。
よって、原告らの請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 林美穂 石垣陽介)